SIMGOT EM2:ボーカル表現に惚れるクリアサウンドの1DD+1BAイヤホン

イヤホン

「安さ」は中華オーディオ製品最大の魅力ではあるが、その技術力に見合うだけのコストをかけた製品はどれほどに魅力的であるのか?について語られることは少ない。

今回は深センの新興オーディオメーカーSIMGOT社より提供を受け、ハイレゾ対応イヤホンEM2のレビューを行う。

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SIMGOT EM2

先述の通りSIMGOTは中国は深センの地で2015年に設立された新興オーディオメーカー。今回紹介するEM2はSIMGOTの中でも最も安価なエントリーモデルとなるが、しかしその価格は2019年10月時点で12,800円(Amazon)と、オーディオ好きでないと手が出しずらいような高価格帯となっている。安さを重視する中華オーディオ界に置いて、高価なイヤホンにいったいどれだけの価値があるのか?個人的にも非常に気になるポイントだ。

パッケージは縦202mm×横133mm×49mm(実寸)と、とてもイヤホンが入っているとは思えないような大きいサイズ。黒地にエンボス加工でイヤホン外観が描かれており、安価なモデルとは一線を画す。

中身もしっかりとした化粧箱に収まっており、高級感が高い。

付属品

付属品は以下の通り。

  • SIMGOT EM2本体
  • ケーブル
  • 革製ケース
  • 取扱説明書
  • 保証書
  • イヤーピース×2種類×3サイズ

イヤーピースは革製ケースの中に収められている。大・中・小3サイズのイヤーピースは、中高音域を重視するEartip1と、低音域を強化するEartip2の2種類が付属。好みのイヤーピースに変えるのはイヤホンの楽しみ方の一つだが、最初から複数の選択肢が用意されているのは嬉しいポイント。

革製ケースは高級感があり手触り感も良い。セミハードケースで蓋はマグネットで止まるので扱いやすい。単なる付属品にしておくにはもったいないクオリティだ。

SIMGOT EM2のスペック

ブランドSIMGOT
モデル名EM2
ドライバー10mmダイナミック型ドライバー(高分子複合チタンコーティング)×1
Knowles製BAドライバー(RAF-32873)×1
再生周波数帯域15Hz-40kHz
音圧感度≧101dB
インピーダンス10Ω
ケーブル0.78mm 2pin端子ハイグレード4芯銀メッキ混合編ケーブル
備考ハイレゾオーディオ認証取得

水滴のような美しいフォルム

SIMGOT EM2は半透明の樹脂筐体+金属製の飾りで構成される。水滴のような滑らかなデザインで、樹脂の透明度は高い。光が当たるときらびやかに光るのがとてもかっこいいのに、嫌味な派手さは一切なく、少し女性らしさを感じるデザインとなっている。モナカ状の2枚のパーツを組み合わせて作られるので、1万円越えの中華イヤホンという意味では少々物足りず、レジン充填のイヤホンに比べると見栄えに一歩劣る部分はあるが、ビルドクオリティは非常に高い。

カラーバリエーションは5種類。いずれも透明樹脂で、写真で見る限りどれもとても美しい仕上がりに見える。自分で買うなら無難にブラックを選択するところだが、今回は提供ということもあり、あえて普段は選ばないパープルを頂いてみた。

そこに組み合わさるのは4芯の銀メッキケーブル。各部パーツも銀色×透明樹脂で統一されていて、非常にすっきりとした美しい仕上がりだ。ケーブルをまとめるベロクロテープには、SIMGOTのブランドテーマである「Salute to Art and Science (芸術と科学に敬礼を)」の文字が書かれている。

イヤホンとの接続端子は0.78mm 2pinで、KZ Cタイプなどと同じqdcタイプ。純正ケーブルとの接続はカチッとしている。またシュア掛け前提の癖が付けられた透明チューブが耳部分にかぶさっているのだが、この癖がかなり固いので装着時には若干だが手間取る感じがある。

軽量で長時間着用しても疲れない付け心地

SIMGOT EM2は樹脂パーツを多用していることもあり、とても軽量な仕上がりになっている。本体も小型でイヤーステムも長く、耳に不自然にあたる部分がないので、長時間装着していても痛みが出づらかった。

DD×フルレンジBAで全域で分厚い音質を実現

普通BAは特定音域の再現が得意なドライバーなので、このようなDDと組み合わせたハイブリッド型イヤホンの場合、低中音域にDDを、高音域にBAを担当させることで高音質を実現させる場合がほとんどだ。高音をよく聞かせるためにBAはイヤーステム内に設置するケースが多い。

しかしSIMGOT EM2が搭載するのはKnowles製のフルレンジBA。これをDDのすぐ隣に設置している。単体でも全域を鳴らせるBAを、チタンコーティングされた10mmDDと並列に接続することで、全域にわたって厚い音質を実現したパラレル型ハイブリッドイヤホンなのだ。

音質:分厚いのにすっきり明瞭、自然で艶感のあるボーカルが美しい

実際の音質の話をしていこう。箱出し状態から非常にいい音が鳴るのだが、半日ほどエージングをかけるとDDの微妙な曇りが取れ、さらに音が良くなった。レビューはエージング後の話である。また後述する理由から、基本的にレビューは付属のイヤーピースでも中高音域を重視するEartip1を使用している。

まずパッと聞いてみてすぐに感じるのは、まるでオーケストラの演奏を聴いているかのような音の厚み。解像度が高く、一つ一つの楽器の音がしっかりと耳に届く。それなのに聞き疲れしてしまうような重たさは無く、むしろ全体的には軽くすっきりとした音にも感じられるから不思議な感覚がある。フルレンジBA×DDのパラレル型ハイブリッドという特色が出ているのだろうか。高音から低音までまんべんなくフラットかつクリアでキレの良いサウンドを鳴らすEM2だが、一番心地よいのはボーカルを含めた中音域。前に出過ぎることはなく、しかしそれでいてまるで目の前で歌手が歌っているような息遣いを感じる。

高音域はハイレゾ対応なだけあって良く伸び、細かい音まで聞き取れる解像度がある。粒立ちがよいので耳をくすぐられるような感触すらある。

中音域は一番厚みが取られており、ボーカルやピアノの音がしっかりと出ている。不自然に強調される部分もなく、とにかく自然な音に感じる。

低音域は、さすがに頭をぶん殴られるような音圧こそないものの、深い領域までしっかり鳴らし、かつ十分に迫力がある。

イヤーピースによる違い

右が中高音を重視するEartip1、左が低音重視のEartip2である。Eartip2の方が開口部が狭く、また端面からイヤーステムまでの距離がわずかに遠くなっている。

これまでEartip1を使っていた状態からEartip2へと切り替えると、確かに表記通りに低音がぐっと強くなり、ちょっとわざとらしさも感じるほどのドンシャリ傾向に変化する。ドラムやベースの音の響きが良くなり、音の重みが増した印象になった。ただしその増した低音を含め、全体的にわずかにクリアさが失われ、高音域の伸びも悪く感じる。

ここでさらにもう一度Eartip1に戻してみると、なんだかその音の軽さに物足りなさを感じてしまうから面白い。しかしやはりこちらの方がすっきりクリアでキレが良く、EM2の良さを伸ばしてくれるように感じる。ライブ感のあるロックサウンドはEartip2の方が似合うだろうが、個人的にはEartip1の方が好みだった。

あらゆる音楽に対応するクリアサウンド

正直なところ、SIMGOT EM2を手にするまで、

「イヤホンに1万円以上を出すのはもはや宗教の領域だし、ましてや中華イヤホンにそこまでの価値はあるのか?」

と思っていたのだが、その考えはあっさりと覆されてしまった。このイヤホンはすごい(確信)。音の厚み・明瞭さ・自然さ、そのどれもが高次元でバランスされ、特にクリアなサウンドとボーカルの艶感に関しては同価格帯の製品を数歩リードするレベルに感じる。

このイヤホンは単純に高付加価値をつけただけのものではなく、しっかりと価格に見合うだけのコストをかけたものであることは、聴いた瞬間にわかる。安さだけが中華製品じゃないのだ。SIMGOT EM2は彼らからの反撃の狼煙のようなイヤホンだった。

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