何を隠そう僕はTRNイヤホンのファン。KZの超強烈なドンシャリサウンドは楽しい一方で、その双璧を成す(?)TRNの高音重視な音作りは僕の琴線に触れる。なので2020年秋に発売されたBA8はすごく欲しかったのだが、発売当初は$100超えの値札が付けられていたので諦めていた。
が、一年経って値段も落ち着いてきたのか、2021年の11月11日セールでは$50前後の価格に大幅値下げ。こうなると元の値付とは一体…という気分になってくるが、とにかく安く手に入るのは嬉しい。この機会に気になっていた一本を購入してみた。
TRN BA8
TRN BA8はTRNのフルBAイヤホンとしては2020年時点でフラッグシップモデルであったため(2021年3月にTRN BA15が発売された)、それにふさわしいやたら大きい箱に収まっている。ちょっと大きすぎるが…。
- BA8本体
- 4芯純銅ケーブル
- イヤーピース
- 金属製イヤホンケース
- 取扱説明書・保証書
が付属。金属製ケースが付く以外は他のTRNイヤホンと特に変わりがない。理由は後述するが、できればケースよりも良いケーブルを付けてほしかった…。ちなみに金属製ケースは少し大きめながら質感も精度も非常によく、イヤホンを安全に持ち運びたい人には良さそう。
TRN BA8のスペック
ブランド | TRN |
モデル | BA8 |
ドライバー | 片側8BA 高音域:30095×3 中音域:29689×2 中音域:50060×2 低音域:22955×1 |
コネクター | QDC |
応答周波数 | 20-20000Hz |
音圧感度 | 100dB/mW |
インピーダンス | 20Ω |
付属ケーブル | 4芯編組 6N OCC 銅ケーブル 3.5mm L型プラグ |
BAはすべてTRNのカスタムドライバー。高音域に3台、中音域に型番違いで合計4台のBAを投入していることからも、明らかに中高音域に焦点を当てた音作りをしていることがわかる。内蔵されたネットワークボードを介しクロスオーバー調整されており、開発には13ヶ月かけたとか。
フル金属製ボディに片側8台のBAを内蔵
TRN BA8は他のTRNイヤホンと同様にフル金属製のボディを持つ。基本樹脂ボディのKZとは差別化されるポイントである。BA5のときのような少し切削痕が見える作りではなく、V90sと同様にツルッとした表面になっている。フェースプレートは音抜け穴がなく、羽のようなデザインにTRNのブランドロゴがワンポイントで入る落ち着いた見た目。半艶の塗装と合わせてシックな印象を与える。
当然ノズルも金属製で、パンチング加工のされた金属フィルターが装着される。裏面には一箇所だけ空気穴が設けられ、突起の無い万人が装着しやすい形状。8台のBAが詰まっているとは思えないほど小柄なボディにより装着感は非常に良好、本体重量もマルチドライバーの割には軽いので長時間使用時の痛みも少なめ。
純正ケーブルは役不足なのでリケーブル必至
標準ケーブルは2020年以降のTRNイヤホンに付いてくるタイプの4芯純銅ケーブル。金属製のL型プラグにはTRNのロゴが彫刻されていて見た目は悪くないのだが、BA8には明らかに役不足。当初このケーブルで聞いたところ全体的に音の輪郭がぼやぼやっとしていた。数時間~1日のエージング後にボヤ付きは多少マシになったが、それでも「これがオーバー$100のイヤホン…?」と疑問に感じるぐらい全体的にハッキリしない音で残念。正直この段階ではBA8を購入したことを若干後悔した。
これを手持ちのKBEAR 16芯純銅ケーブルに変更すると音が一気に改善。全域クリアに鳴る上、低音の迫力も高音の伸びも格段に良くなった。あと明らかに音量が大きくなる。純正ケーブルだとあまりに残念なので、イヤホンケースよりもグレードの高いケーブルを付けておいてほしかった。この価格帯の中華イヤホンを純正ケーブルで聞く人も少ないと思うが…。
というわけで、これ以降の音質レビューはリケーブル後の話で進める。
音質:中高音の伸びを重視しつつ全域を自然につなげるハイレベルな仕上がり
TRN BA8は超マルチBAイヤホンの強みを活かし、特に中高音域ではまるでオーケストラのような非常に濃厚で分厚い音を奏でる。寒色系でどちらかといえばドンシャリサウンド、楽しく音楽を聞く方向に振っている。TRN BA5では局所的に主張が激しく、特に高音域では刺さりも結構ある故に人によっては不快感があったかもしれない。しかしTRN BA8はとにかく全域が適度に前に出つつ自然に繋がっており、非常に繊細なチューニングが行われている。音が重なっていってもどこかが減衰するような場面は見られず、一音一音をハッキリと鳴らし切るきめ細やかさとキレの良さを持ち合わせる。音場感はやや狭めながら空間表現はしっかりとあり、臨場感が素晴らしい。
低音域はシングルBAが担当するためタイトで硬質。KZ ZAXのような超強力なDDが積まれているわけではないのでマッチョがぶん殴ってくるような響きこそ無いが、迫力ある低音の質量と音圧が鼓膜をガンガン揺らす。その分余計な響きやボヤ付きがなく、歯切れのよいドラムやベースを楽しむことができる。これは物量が割かれている中高音域に全く負けるものではなく、むしろ音量的にも大きめで、音楽の足元をかっちりと固める。
片側4台ものBAが割かれている中音域から濃厚さが一気に上がってくる。弱ドンシャリ系と表現はしたが、別に中音域が他音域に比べて負けているということは一切ない。ボーカルは艶感があり、息遣いまで完璧に伝わってくる。サ行の刺さりは刺さるギリギリのところで抑えられている。ピアノやギターなどの伴奏も適度な解像感と明瞭さで心地よい。
高音域は非常に伸びやかで金属的な煌きがある。こちらにも3台のBAが当てられていることもあり、とても濃厚で気持ちが良い。その分刺さるような粒立ち感は抑えられているものの、一音一音はハッキリ明瞭。非常に艶やかできれいな音は迫力と聴きやすさを両立しており、高音域がこのイヤホンのキャラクターを決定させている。
完成度の高いマルチBAイヤホン
ほぼ密閉型故かBA5に見られるヌケ感の良さは欠ける部分こそあれ、マルチBAらしい中高音域の濃厚なサウンドと自然なつながり、そしてキレの良い低音という音質を持つTRN BA8。これはまさに耳元にオーケストラがいるようなものである。故にどんな曲でもオールマイティーに合わせることができ、曲を楽しく演出する。ある意味ではピンポイントに尖った特徴が無いとも表現できるかもしれないが、このまとまりの良さの前ではその批評に意味は持たない。
欠点は通常価格の高さと純正ケーブルの品質不足だろうが、それらを上回るほどの魅力を音色という形で出力するTRN BA8。胸焼けしない常用できる濃厚サウンドを持っておいて損することは無い。
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